平成4年(1992年)5月20日 OPINION掲載
(「若人の翼」の申し込み小論文として書いたものを掲載)
二瓶 晃一 (執筆当時30歳)
「世界」を意識しだしたのは頃からだろうか? そして、それはどんな切っ掛けからだったろうか? 最近、そんな思いにかられながら不確かな記憶をゆらゆらとたどってみる事がある。初めて買ってもらった地球儀や世界地図…ワールドカップのゆれるスタンド…それとも、16年前の兄の「若人の翼」のお土産…きっと幼い頃からの様々な出来事が絡み合って、私の中に遠くぼんやりと「世界」というものを意識させてきたのかもしれない。そんな私に「世界」をもっと身近に感じさせてくれる出来事が昭和59年(1984年)にあった。
私の住む小野町は国際交流に関心のある若者が多く、毎年どこかしらの国からホームステイを受け入れている。昭和59年(1984年)に私の後輩がアセアンからの若者を受け入れ、私も招待されて遊びに行った。違う国々から集まったごく一般の人達が、10数人のグループで英語を共通語として日本を一か月近くまわるという。これには本当に驚かされ、彼らの国際性に敬服した。
その日は夜遅くまで時を忘れて彼らと話し合った。政治経済のかたい話から趣味や恋愛観まで話題は多彩だった。帰り際の「手紙を書くからから返事をくれる?」とのタイの人の言葉に二つ返事で答えた私は「英文手紙の書き方」の本を買いあさり、手紙がくる度に夢中になって返事を書いた。返事を書くと今度は海の向こうからの便りが待ち遠しく、郵便受けにエアメールを見つける度に言葉にならない嬉しさで胸がいっぱいになった。心がかよう海外の友人を持つ事のすばらしさ。私の中で「世界」が少しずつ膨らんでいく様な気がした。
今、「世界」は既に、どんな人にとっても「遠くぼんやり」したものではなくなってきている。世界の様子がリアルタイムで茶の間に届き、お互いの国の出来事は毎日の生活に即座に影響を及ぼしている。そんな私達のまわりに溢れている情報は、あたかも私達が既に「世界」を理解してしまっている様な気にさせている。
だが、「世界」はそれぞれの人の心の中にイメージとしてだけ存在するものだ。それゆえに、国や言語、宗教や歴史などによってそれぞれの「世界」観が形成され、そのイメージの「ずれ」が様々な摩擦や紛争を呼んでいる。多くの人々が「活きた情報」を交換し、お互いの「世界」のイメージを近づける事が今、求められている。世界中のもっと多くの人と出会い、話をしてみたい、そんな思いにかられる。
人口・エネルギー・環境…様々な問題が人類の前に山積している。世界が激変する今、私達に課せられているのは「世界がどうなるか」を予測する事ではなく、「世界をどうするか」を考えていく事だと思う。世界をレイアウトする--------近い将来、そんな大きな仕事の小さな役割でも担う事が出来れば幸せである。そして、私達の地域からそんな人材を育てていきたい、そう思っている。
ふるさとは、私達の一番身近な「世界」なのだ。
※ワールドカップ
フットボール(サッカー)の世界選手権。4年に一度、オリンピックの中間年に開催され、世界中の140ヵ国を超える国が2年半の予選をかけて競い合う。本大会はオリンピックを越える規模で、その熱狂度と合わせてまさに世界最大のイベントと言われている。
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