このまちのかたち


第一部 行政改革

平成5年(1994年)2月20日 OPINION掲載

二瓶 晃一 (執筆当時31歳)

 「最近、役場では行政機構改革ってーのを やっているらしいね」

いつもの様に友人が茶飲み話を切りだした。

 

「あーそうだな。そういやあ去年、議会傍聴に行った時にそんな話が出てたな。」

「どんな風になんのかな?」

「んー、そん時の話じゃあ、役場の中で課長補佐以上の人達が検討しているって事だった よ。今頃はもう改革のアウトラインが出来上 がっているんじゃないの。」

「どうせ、そんなには変わんねえんだろ。」 友人はいつもの口調で言った。

 

「実は、議会傍聴で行政機構改革の話を聞い た時考えた、俺なりの意見があるんだ。」

「また、おまえの講釈が始まったな。」 と、言いながら、勝手知ったる他人の家で、 友人はどこからともなく茶菓子などを取出してきては、話を聞く準備をしている。話が長 くなるのを見越しての事だ。

 

「で、それってどんな改革なの?」友人が身 を乗り出してくるので、私もすっかりその気になり話始める。

そんなこんなで、また、あ る日の「OPINION談義」が始まった。

 

●3つの課

 

 「まず、課を3つにするんだ。」私がこう言 うと友人はハトが豆鉄砲をくらった様なキョ トンとした顔をしている。

「何だそれ?」

「つまり、俺は行政っていうのは3つの性格 に分けられると思うんだな。その性格によっ て、課を3つにすると言うわけだ。一つは昔 からの[お役人]の仕事。つまり国の行政を委託されて執行する仕事だな。これを仮に、 [国政委託課]とでも名付けようか。 

 

 次にサービス業としての行政だな。これは、 主に福祉事業や社会資本の整備などを推進する業務。これを担当する課を仮に[行政サー ビス課]と呼ぼう。そして最後には町を演出 してイベントを企画したり、産業を育成して町をPRしていく業務。この担当をまた仮に [企画PR課]と呼ぶ事にしよう。」

 

●町--この特殊な株式会社

 

 私がこんな発想をする様になったのは、まわりのいろいろな行政批判や意見、かたや、行政に携わる人達の話などを聞いていて、何か 話がかみあっていないな、と感じる様になっ たからだ。

 

 以前、私達が「まちがこうあったらいいとか、こんな事をやってほしい」と話を出すと「町はソフト事業をしない」とか言う言葉がよく行政サイドから返ってきたものだし、また産業育成的な話には「自助努力」と言う決まり文句が返って来た。いわゆる、 「町が何をしてくれるかを待っている人々が 多い」と言う事で、よく行政マンの口から出る言葉だ。

 

 私は、この感覚の違いが、一体どこから来るものかといつも考えていた。そして、町・行政とは何なのか? そんな事をもんもんと考えいた時、町はいわゆる一つ の特殊な株式会社なのではないかと考えるよ うになった。

 

 ●町民三態

 

 何が「特殊」なのかと言うと、この株式会社は株主とお客さんが一緒なのだ。つまり、 町にとって町民はお客さんであって、なおかつ 株主だと言う図式が成り立つのである。 

 

 先 程の3つの課に相当して言えば、一番最初の [国政委託課]は、町民を国民として意識し て業務をする課であり、二番目の[行政サー ビス課]は町民をお客様として、そして、三 番目の[企画PR課]は町民を株主として意識して町民に有形・無形の利益を配当する事 (ただ単に経済的な利益だけでなく、例えば 誇りをもてる素敵な町づくりをする事も無形 の利益だ)を目的とするのである。

 

 こんな風 に「町民の三態」を考えていけば、話がかみあわない、言い合いみたいなものは、自ずから少なくなってくるのではないか。この会社 (町)の社員が仕事をする姿勢や目的が明確 になるし、町民の要望の対象も明確になると 思う。もちろん、人それぞれ違う考えがあるが、それらを「意見」として、議論していけ るのではないかそう考えている。

 

 ●町のJリーグ化  

 

「ふーん。おまえの言う事はだいたい分かったよ。でも、何で課が3つになるんだ? 今、課は8つもあって、その他に機構図をみると課に相当する2つの室があるんだぜ」

「そりゃあ簡単な事さ。課長をプロにするか らだよ。」

「何!」

 私の友人は驚くのが好きだ。何か言うとすぐとんきょうもない声をあげる。

 

「つまり、町長は助役と収入役の他に課長も選任して行政を執行するのさ」

各地方公共団体の首長の任期は、権限の固定 化を避け、風通しの良いものにする為に、近い将来3撰禁止の2期までとなり、最大で8 年になるだろう。そうなってくると現状の様 に最初の一期はお勉強で、人事も掌握して自 分の仕事ができるのは2期目から、などとの んきな事を言っていたら、何の為に町民が町長を選んでいるのか分からなくなってしまう からだ。  

 

 これを我々の会社(町)の業務を運営している行政マン達の立場から見てみよう。会社(町)に入社してサラリーマンとして出世できるの は課長の手前まで。その人にやる気があって志があれば、プロとしてフリーランスとなり課長として高収入を得ながら、自分の能力を発揮するチャンスがある。

 

 その反面、町長が変われば職を失う可能性がある課長を夢見ず に、公僕として退職金を目標にコツコツやる選択もできる

 

「これを、おれは役場のJリーグ化と名付け たんだ。」  

 町長の候補者は助役と収入役、そして課長 をそれぞれ指名し、彼らをブレーンとして選挙に当選した後の町の政策を発表して選挙に出る。課が3つで少なければ別に課長が4人でもいいが、例えばその時の町長候補が[行 政サービス]を重視しようと考えれば、福祉関係と社会資本関係の2人の課長をおけばい いわけだし、もし産業の育成が大切だと感じ たら、[企画PR課]を産業育成とPRの2 つに分ければいいと思う。これなら、その組織を見ただけで、その町長候補の姿勢が一目 瞭然だ。

 

 ●縦と横の関係

 

「今までの課と係はどうなるんだ?」 友人はその辺の本棚にあった町政要覧を見な がら質問する。

「基本的にはね、今までの課を係として、3 つの課に同じ様に配置するのがいいと思うん だ。」

「3つの課に係を同じ様に?」

「そう、でも水道係なんかは、どう考えても [行政サービス課]にしかいらないと思うか ら、そんな感じのものは無理にそれぞれの課 に設置する必要はないと思うけど。」

 

 人間と言うのは元来、保守的にできている。 もしこの機構改革を実際に実施すれば、まず業務に携わっている人達が大混乱をおこすだ ろう。それにを防ぐには、この改革のねらいを把握する必要がある。ねらいとは、縦割りで不評の行政体系の縦を横に、反対に横を縦 にすると言う事だ。

 

 例えば、国民年金や戸籍業務は[国政委託課]の町民係が行なうが、 福祉や消防交通などは[行政サービス課]の 町民係が行なう事になる。課は違うが同じ町民係。横(今までの縦)のつながりも大事にしないと仕事がしづらい。こうして、しばら くは人々の保守性を逆に利用して、縦と横の 関係をスムーズにしていくとおもしろいと思 う。

 

 もし、この3つの課にみんなが慣れてくれば、その時の町長の政策や町民の要望、そ して時代の流れによって、係はどんどん変え ていったら良いだろう。場合によっては、どんな係がよいのか町民に公募したりするのも いいんじゃないかと思う。

 

●改革と地方分権の将来 

 

 機構を変えると言う事は、実はそれ自体が目的ではない。より以上に機能的にすると言う事はあるだろうが、一番大切なのは意識を変 えると言う事なのだ。「システムを変える」 と言う事はその手段にすぎない。もし、機構を変えなくても人々の意識が変わるならば、 無理して変える必要はない。

 

 しかし、実際に は意識を変えると言うのはたいへん難しく、 その為にみなあれこれと策をねるのである。 それはもしかすると、彼女の心をとらえる( 意識を変える)為に服を着替えてデートに出 向く男達の姿によく似ているかもしれない。 (中には車まで変えて行くのもいるが…)

 

「しかし、今度の改革は県あたりが一部機構 改革するって言うんで、それで始めたと言う のが本当らしいよ。おまえの様には、絶対考 えないと思うよ。」友人の言葉はいつもネガ ティブだ。

「ああ、そうみたいだね。でも、行政機構改革なんて、本当のところ末端から始まって、 県とか国が変わるのが本当じゃないのかな。 そんなエネルギーがなけりゃあ、地方分権なんて実現しないよ。」

「そりゃあそうだけど…」

 

●県庁はなくなる

 

 「大体、将来県庁はなくなると思うよ。」

将来、地方分権が具体化されてくれば、県を単位とする地方公共団体はなくなると思う。 現在の県と言うのは、大化の改新以来の国割 りをもとにして成立している。だから、その 歴史もあり、今の郡の様に一つのまとまりと しては残っていくとは思うが、行政としての 実態はなくなるだろうと思う。そして、町と 言うのも地方公共団体としてはなくなっていくだろう。普通地方公共団体は、道(または 州)と市の2段階で組織される様になるだろう。

 

  あぶくま高原都市の中心として小野町が市に移行していくのか、それとも大きな市に吸 収されていくのかは、地方分権のシナリオによるだろう。が、しかし、たとえ地方公共団 体の主体が市になったとしても、身近なコミ ュニティーとして「まち」は残っていく。  長い歴史にうらうちされた、「まち」の存在が人々の生活に大きな影響を与えていくの だ。だからこそ、この「まち」単位の意識改 革と言うものが、必要かつ重要な事なのだ。

 

「しかし、おまえの話は絶対実現しないと思 うけど、おもしろくていいね。」

私の友人は、私の話をまるで寄席でも聞いて いる様な感覚でいるらしい。もっとも私もそ んな「寄席感覚」が楽しくて喋っているのだが…。

 

「それで、もっとネタはねーの?」 「そうだな、今度は議会の事を話そうか。議会と地方政治改革と言うやつだな。」 「そりゃあいいな。今、国でも政治改革って やつが流行りだからよ」

 OPINION談義は、またしばらくつづく。