平成4年(1992年)8月20日 OPINION掲載
二瓶 晃一 (執筆当時30歳)
「夏は夜。蛍の頃はさらなり」と、清少納 言は枕草子に書いている。ホタルは夏の夜の 風物として人々の心を太古の昔からなごませ てくれている。幼虫が水のきれいなところで ないと育たないホタルは、また水の汚れのバ ロメーターともいわれている。都会から来た お客様が「ホタルいるんですか?」と驚きな がら言うのも、都会ではホタルの幼虫が育つ 環境がほとんどないからだろう。
だが、この田舎の小野町でも昔にくらべる とホタルは減っているような気がする。子供 心にだが、以前は夜になるとうるさいくらいに 家の中に入ってきたような気がする。その原因はいろいろあるのだが、その最大 のものを考えさせる一つの出来事が先日あっ た。
東京から来たお客様が部屋から電話をかけ てきて「小さな虫が網戸をかいくぐって入っ てきて困る」との事。ちょうど7月の土用で 虫たちがたくさん出てくる時期である。あわ てて殺虫スプレーを持っていって無事解決し たが、帰りぎわに見るとその中にホタルがい た。きっと都会の人には電灯の下でしかも背 中のほうから見ればホタルとは気が付かない のかもしれない。
「自然というのはきれいなものばかりでは ないですからね」 私はお客さんにそう言って笑った。
ホタルが数多く育つ環境をつくる と当然他の虫たちも数多く育ってくる。他の 虫たちを嫌がって大量に殺していくとホタル も減ってしまう。「一口にカンキョウ、カン キョウと言ってもほんとうにムズカしいもの だな」私をそうつぶやいた。
生活雑排水と生 活水準の問題などでもわかるように、環境問題とか自然保護というのは常にそんな相反す る感情のうらオモテのなかで試行錯誤を繰り 返している。私達はともすれば、きれいな花 だけを集めて自然を「つまみ食い」している事が 多い。
うつくしま福島のキャンペーンが小野町で も始まった。心なごむホタルの「灯」を見る 時、環境問題というこの難しい大問題に着実 にチャレンジしていかなくてはならない、そ うホタルが呼び掛けているようなきがしてな らない。いつまでも美しいふるさとであるた めに…
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